CASE 01

「好き」より「嫌い」を手放す。apartment 301が見つけた、自由な暮らし方。

Millenia LifeStory — 01

「好き」より「嫌い」を手放す。
手放すことで見つけた、自由な暮らし方。

 

「賃貸リノベと持たない暮らし」をテーマに発信するインスタグラマー、apartment 301さん。熊本地震をきっかけに10年かけてものを手放し続けてきた彼女の部屋を、Milleniaプロデューサーの吉安孝幸が手がけた。空間との向き合い方、強さの意味、これからの住まいへの思いを聞いた。

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きっかけは熊本地震

2016年4月、熊本地震が起きた。揺れが収まってから部屋に戻ったとき、apartment 301さんは言葉を失った。棚の上のもの、テーブルに置いていたもの、壁際に並べていたもの、すべてが床に散乱し、足の踏み場もない状態になっていた。「そんなに持っているとは思っていなくて、本当に驚きました」と彼女は振り返る。

壊れたものを処分するところから始まった。それは最初、やむを得ない片づけだった。しかし、ものを減らし続けるうちに、壊れていないものまで手放すようになった。これまで当然のように買い続けてきたもの、なんとなく持ち続けてきたもの。ある日突然すべてが床に崩れ落ちたとき、「何のためにお金を使って、ものを買い続けてきたんだろう」という問いが頭から離れなかった。その問いが、暮らし全体を根本から見つめ直すきっかけになった。

その後、建物の解体にともなう立ち退きで、13年住み続けた部屋を離れることになった。紆余曲折を経て移ったのは、築50年ほどの古いアパートだった。以来、手を入れながら、ものを減らしながら、自分の暮らしをつくり続けてきた。「生きている間に持ちすぎていたもの、背負いすぎていたものをひとつずつ剥がしていく作業だったのかなと、今となっては思っています」。

「好きに囲まれた暮らし、とよく言いますよね。でも私はどちらかというと、嫌いなものを徹底的に排除することにフォーカスしています。好きは変わるけど、嫌いはあまり変わらない。だから嫌いをちゃんと見ていくと、好きな空間が長続きするんです。」

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空間の余白をつくること

ものを減らし続けた10年の結果として、apartment 301さんの部屋には独特の静けさがある。棚には必要最小限のものだけが置かれ、床には何もない。「ものがいっぱいあると、一個一個がいいものであったとしても、良さが埋もれてしまう気がしています。一番好きなものが活きるように、それを邪魔しないもの、邪魔しない量を大事にしています」。

その考え方は、新しい部屋のリノベーションにも直結した。面積が以前より広くなるとわかったとき、収納を増やそうという発想はまったく浮かばなかったという。「収納のオーダーは一切しませんでした。それよりも、自分が自由に動けるスペースを広く取りたかった」。吉安がプロデュースしたリノベーションは、壁を取り払い広々としたワンルームにするというシンプルな要望に応えるものだった。

もので埋め尽くされた部屋から、余白だらけの部屋へ。その変化は、空間を「何かを置くための場所」から「自分が暮らすための場所」として捉え直すことでもある。「持ち物が多いと、それをどうにかしまわないといけないことが前提になる。収納が増えれば、自分が自由に使えるスペースが自動的に狭くなる。家って、ものの保管場所ではなくて、自分が暮らすための空間ですよね。それなのに、ものに占領されるのはとてももったいないと思って」。

自分があっての持ち物であって、持ち物のために家があるのではない。その考えが根底にあるからこそ、広くなったスペースを前にしたとき、apartment 301さんが感じたのは迷いではなくワクワク感だったという。「空いたスペースを埋めずに、どうやって暮らそうかという楽しみの方が強かったです。なかなか贅沢な空間の使い方ができるなと思って」。

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いらないもの、とは何か

「家にいらないものって何だと思いますか」と問うと、apartment 301さんは少し考えてから答えた。使っていないもの、はもちろんそうだ。しかしそれより興味深かったのは次の答えだった。「好きじゃないけど持っているもの、が意外と多いんじゃないかと思って。なんとなく持っているだけで、とくに好きでも嫌いでもないようなもの。そういうものはもう速攻で、ですね」。

彼女が独自のこだわりとして語るのが、「嫌い」への視点だ。雑誌やインスタグラムでよく目にする「好きに囲まれた暮らし」というフレーズに対して、彼女はむしろ逆のアプローチを取る。「好きは時々で変わるけど、嫌いなものって変わらないんです。だからそっちを一生懸命見てあげると、好きな空間が長生きするのかなと思っています」。嫌いなものを排除していくことで、残ったものたちが自然と好きなものだけになる。その考え方には、単なるミニマリズムを超えた独自の哲学がある。

「揺るがないものを持っている人は、強いと思う。何かがあっても、自分の芯がぶれない。それは建物も同じなのかもしれません。」

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強さとは何か

Milleniaが大切にするキーワードに、「強さ」がある。防災住宅として培ってきた物質的な強さだけでなく、「強さにもいろいろな形がある」という視点から生まれたブランドだ。apartment 301さんに「あなたの考える強さとは何ですか」と聞いた。

被災の経験を持つ彼女は、まず迷わず建物としての強さを口にした。同じ揺れの中で崩れた建物と、崩れなかった建物を目の前で見てきた。その差がいかに大きなものかを、身をもって知っている。「やっぱり、ああいう場面でも壊れないということは、強さとして絶対にあると思います。安心して住める箱であること。それが人の暮らしを守る一番の基盤だと、あの時に強く感じました」。

そして、もう一つの強さを彼女は語った。「揺るがないものを持っているということが、強さだと思います。何かがあったとき、フラフラ揺れてしまう人よりも、絶対にぶれない芯のようなものを持っている人は強い。それは建物にも、人にも言えることかもしれない」。

10年かけてものを手放し続けてきた彼女のライフスタイルは、外側のものを削ぎ落とすことで、自分自身の「揺るがないもの」を見つけていくプロセスでもあったように思える。何を好きで、何を嫌いか。何があれば十分で、何がなくても困らないか。それを問い続けることが、暮らしの芯をつくっていく。

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素材と、時間と、変化について

これからの住まいへの希望を聞いたとき、apartment 301さんは「新しくても古くても、どちらでもいい」と言った。ただ、一つ大切にしたいことがある。「新建材が全く使われていないお家で生まれ育ったんです。今になって思えば、素材そのものがすごくよくて、自然と変化していく。そういうものが逆にいいと感じていて」。

よく「劣化」と呼ばれるものを、彼女は「変化」と言い換える。芸能人が年を取ることを「劣化した」と表現することへの違和感と同じように、建物が時間をかけて変わっていくことは、決して劣ることではない。「自分が年を取るのと同じように、家も年を取っていく。その変化を一緒に過ごせるようなお家が理想です」。

今住んでいる部屋でも、吉安がプロデュースしたリノベーションにおいて、古い建物の記憶を残すことが大切な方針のひとつだった。「せっかく古い建物なのに、中だけを新築のようにピカピカにするのは違う。以前のこの部屋の記憶を残して、良かったところを潰してしまわないようにしたい」。その言葉は、apartment 301さん自身の暮らし観と、深いところで響き合っている。

新しいままであり続けることは、世の中のどんなものにも不可能だ。人も家も、時間とともに変わっていく。ならば、その変化を共に楽しめる関係でありたい。「自分があっての持ち物」と同じように、「自分があっての住まい」という考え方が、ここにも静かに流れている。

「家って、ものの保管場所じゃなくて、自分が暮らすための空間。自分が年を取るように、家も年を取っていく。そういう関係でいたいと思っています。」

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暮らしはいつも、途中にある

今住んでいる部屋が一生の住処になるとは、apartment 301さんも思っていない。築年数的にも、賃貸という意味でも、いつかまた新しい場所へ移ることになるだろう。それでも彼女は、先のことをあまり心配していない様子だった。「吉安さんがいれば、自分が住みたいお家は多分生まれてくると思うから、全然心配していないです」と笑って言った。

暮らしはいつも途中にある。好きなものも、嫌いなものも、理想の空間も、少しずつ更新されていく。「常に自分を探し続けていくのが人生」という彼女の言葉通り、住まいもまた、自分を探す旅の一部なのかもしれない。ものを手放すことで生まれた余白の中に、apartment 301さんは自分らしい暮らしのかたちを、今日も静かに見つけ続けている。

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[Interviewee] apartment 301

熊本在住のインスタグラマー。「賃貸リノベと持たない暮らし」をテーマにInstagramで発信。フォロワーは10万人を超える。2016年の熊本地震をきっかけに「持たない暮らし」を始め、10年以上にわたってものを手放し続けている。著書に『捨て活で見つけた私が主役のワンルームライフ』。
Instagram:@apartment_m301

 

[Millenia Producer] 吉安 孝幸

熊本市出身の建築プロデューサー。建築家を率いて高デザイン・高性能な住宅づくりを手がけ、全国的な評価を獲得。創業した住宅会社では10年間で約1000棟を手掛ける。現在はMilleniaのプロデューサーとして、新しい強さのかたちを提案している。
Instagram:@takayuki_yoshiyasu